宗教部会

宗教部会交流学習会(北海道エリア)の報告

日時: 2005年12月9日(金) 14:00〜 16:00
場所: かでる2・7 540会議室  (札幌市中央区北2西7)

 沖縄北陸に続いて第3回目となる北海道エリアでの宗教部会交流学習会を去る12月9日、札幌市の北海道立道民活動センター (かでる2・7)で開催しました。
 
 今回の学習会では、「胎児標本の問題について 現状と今後」(提起者:花崎皋平氏)、「アイヌ民族問題の視点からハンセン病問題を考える」(提起者:竹内渉氏)、「ソロクト・台湾訴訟の現状と北海道における取り組みについて」(提起者:由井久志氏)、「宗教とハンセン病 特に私立療養所設立の精神に注目して」(提起者:訓覇浩氏)というテーマが取り上げられました。
 

 花崎皋平氏からの問題提起は、国のハンセン病絶滅政策による強制堕胎の結果として療養所に存在する胎児標本をめぐる動きについての、大変緊急性を帯びたものでした(詳細は別紙レジュメ「胎児標本問題の現状と今後について」参照)。標本となった胎児に対して「今年度中、各施設で焼却、埋葬(合祀)、供養および慰霊を行う。身元が分かっている胎児もいるが、遺族の精神的な負担を配慮し、一律には知らせず、遺族の求めに応じて胎児の存在を確認する期間を設ける」という厚生労働省の方針が11月28日の朝日新聞紙面で明らかになりました。花崎氏からはこの方針における国の責任と歴史的事実の隠蔽の問題、当事者女性の自己決定権がないがしろにされていること、生命倫理の観点からの問題等が指摘されそしてまずは今年度中にという厚労省の性急な実行を抑え、女性当事者への事実調べと意思確認のための時間の余裕を置くことが必要であり、女性の人権尊重への配慮がなされた上で対処されるべきだという提起がなされました。問題提起を受けて参加者一同これを大変重要な課題として受けとめ、意見交換の中で、胎児の遺体が「医学的廃棄物」として一挙に「焼却」されるという個の生命の尊厳を踏みにじり、強制堕胎そのものの被害に加えさらに遺族殊に母親である女性にさらなる苦しみを負わせることとなるこのようなあり方に対して、私たちは隔離政策を存続させてきた市民、そして宗教者の社会的責任としてその問題性を訴えていくべきであるということが確認されました。


 竹内渉氏からの提起は、1870〜90年代のアイヌ民族に対する強制移住の例との比較からハンセン病者に対する強制隔離の問題をとり上げたものでした。アイヌ民族に対する強制移住の理由の多くに、アイヌ「救済」また「保養地」設定とあり、このことは、ハンセン病者に対する強制隔離の過程において「患者救済」が謳われたことと共通していることを指摘され、「救済」「保護」の問題性を表したものとして「鶴を保護しようとして、その片羽根の関節骨を切り、鶴が遠くに飛べないようにしている自然公園があるが、政治の中でアイヌが置かれてきた立場も、旧土人保護法もそれに似ている。アイヌは人間だから羽根の関節骨を切られるようなことはなかったが、いろいろなことを総合して考えるとあまり変わらないといってよいだろう。」という、アイヌ民族復権運動を担ってこられた故・結城庄司氏の言葉を紹介されました。そして、アイヌ民族復権の闘いもハンセン病回復者の人間回復の闘いも、ともに奪われてきたものを取り戻す闘いであると述べられました。


 由井久志氏からは、この間の韓国ソロクト・台湾楽生院訴訟判決に際し「ハンセン病問題を考える会」「ハンセン病回復者と北海道を結ぶ会」「北海道はまなすの里」の北海道における三団体が結束して、署名活動、また東京での判決行動と取り組んでこられたことの報告がなされました。そして10月25日の一審判決を受け、原告の訴えが認められなかったソロクト訴訟に対して控訴し、また一方で原告勝訴の台湾訴訟に対しても国側が控訴したことにより、いずれも東京高裁が舞台となる今後の闘いに関して、早期解決・平等解決に向けさらに支援の輪を広げていくことの重要性について述べられました。また裁判支援の中で、大学生等若い世代の参加が多く見られたことに触れられ、こうした若者の自発的取り組みを見守り支えながら次世代との橋渡しをすることにおいて、宗教者の担う可能性は大きいのではないかという提起がなされました。


 時間的制約から予定されていた発表の時間が削られてしまいましたが、訓覇浩氏からは三名の方からの発表を受けての最後のまとめという形で、特に竹内氏の発表にあった「救済」への視点との関連において、私立療養所の設立の精神に象徴される「隔離=救い」であるというあり方を検証する中での、「宗教的救癩観」の問い直しが必要であるという提起がなされました。
 このたびの集会では「胎児標本」問題、ソロクト・台湾訴訟という具体的取り組みの急がれる課題について、また北海道の地域性ということからも重要であるアイヌ民族問題とのつながりについて、限られた時間のなかで多岐にわたる重要な課題の提起を受けました。今後これらの課題をさらに深く共有すべく、議論の場を継続させていきたく思います。


レジュメ 胎児標本問題の現状と今後について

花崎皋平

(1)11月28日朝日新聞に報道された厚生労働省の各園への提案。これは各園自治会、全療協、弁護士たちと打ち合わせた上の規定方針の実行を求めるもの。

(2)当事者女性の自己決定権という意味での人権に対する配慮を欠く。胎児の身元のていねいな調査、標本の医学的検査は国の責任ではないのか。

(3)全標本の一挙焼却は、歴史の資料を消すことではないのか。

(4)聞き取りから、いろいろな事実がわかって来つつある。

(5)生命倫理の観点から深める必要性。胎児は生存可能性を持っていた存在であり、母の生命の連続性への畏敬とそれを絶たれた母の痛みと向き合うというところから、もう一度議論をしてゆく必要を覚える。また、検証会議の最終報告書に記載されている、「医学的廃棄物」として胎児を観ることは、歴史の文脈から標本を切り離し、国の責任を消してしまう見方である。

(6)各園の対応。鹿屋は園内放送で呼びかけ。草津は多摩の研究所に二体残されていることがわかり、返還を要求している。自治会長は、標本の保存を提起しているが、「恥さらしだ」という男性家父長制型の反対が出され、激論になっている。

(7)今後の対応。方針の性急な実行を抑え、女性当事者への事実調べと意思確認のための時間の余裕を置く。女性の人権の尊重についての議論を深め(療養者と市民相互で)、内外の女性たちの意見を十分聞いた上で対処するよう求める。

←戻る 部会TOP 市民学会TOP 進む→