ソロクト・楽生院訴訟

ハンセン病回復者と故郷・新潟を結ぶ会 代表 酢山 省三


 私たちの「会」はハンセン病国家賠償請求訴訟熊本判決4周年を記念して「ソロクト訴訟を支援する新潟のつどい」を今年の5月24日開催しました。ハンセン病問題に取り組んでいる私たちとして、日本の植民地時代に朝鮮半島沖の「小鹿島」(ソロクト)療養所にあるハンセン病療養所に強制隔離された韓国人元患者が、「私たちは当時日本の政府の命令で療養所に連れてこられ、植民地故に日本の療養所以上にひどい仕打ちを受けた。ハンセン病補償法に基づく補償を受ける権利がある」と訴えた裁判支援に取り組むことは自然であったし、新潟とソロクトは同じ日本海で繋がっていて身近に韓国はじめ朝鮮半島の出来事に関心を持っていることも「新潟のつどい」開催の動機でした。
 「つどい」には昨日(25日)のマスコミ報道にその顔がアップされていた原告の蒋基鎮(チャン ギジン 84歳)さんと現ソロクト療養所自治会長の金明鎬(キム ミョンホ)さんにおいでいただきました。蒋基鎮さんは20歳でソロクト療養所に入所、日本の療養所以上の過酷な強制労働を強いられ、日本の神社参拝をキリスト教徒である蒋さんは拒否したことで罰としての断種を受けたことなどが語られ、勝利の判決を信じて再会することを約束しました。
 昨日10月25日、午前10時東京地方裁判所前、新潟から参加した「会」のメンバー4人は支援の人々の輪の中で判決結果を待ちました。ソロクト訴訟「不当判決」の垂れ幕を目にした支援者からは意気消沈するため息と「なぜ」の声が一斉に上がりました。30分後、台湾楽生院訴訟「勝訴」の字を見つけた支援の輪の中から「おおー」と歓声が上がりながらも、「なぜ」「同じ裁判なのに」「裁判官が違うから」と疑問の声が飛び交いました。
 裁判所から不当裁判の抗議に行くバスの中で弁護士から結果の説明を受け、私は新潟に帰る新幹線の中で夕刊全紙に目を通しました。疑問は「同じ訴訟の内容で二人の裁判官はなぜ全く違う判決を出したのか」でした。
 「日本統治下における療養所で強制隔離による人権被害の存在」は2つの判決とも認めるものでした。何が違ったのか。熊本判決確定後に国会で成立した「ハンセン病補償法」の解釈でした。「補償法」はその補償の対象となる療養所を「国立ハンセン病療養所等」とのみ規定して、具体的な特定は厚生労働大臣告示に委ねました。告示には「海外の療養所の記載がないから、補償の対象にならない」というのがソロクト訴訟の裁判官の解釈でした。
 「補償法」は国籍、入所時期、居住地の制限はなく、日本の国立ハンセン病療養所などに入所していた外国人も補償を受けています。
 「補償法」は国会議員立法で提出され全員賛成で成立した法律です。確かに、ソロクト訴訟判決に述べられているように「法律の審議経過の中で海外の療養所での適用についての質疑等はなかった」ことも事実のようです。しかし、立法作業の中心で奮闘した江田五月議員は25日の夜のテレビで「海外の療養所の入所者を排除することは全く認識していなかった」と述べています。
 新聞報道の「2つの施設を厚生労働大臣告示から除外したのは、政府が韓国や台湾だけでなく、旧満州など戦前統治下にあった地域の施設の入所者から際限なく補償請求が出ることを恐れたためだ」、また厚生労働省幹部の発言「海外の療養所の入所者の名簿が不明確で金ほしさに不正な補償請求が予想される」記事を目にすると、「ハンセン病補償法」の成立根拠になっている4年前の熊本判決の根本を政府や厚生労働省幹部が全く理解していないのではないかと疑いたくなるばかりです。
 熊本判決は国の90年に及ぶ患者への間違った強制隔離を断罪、国は元患者に謝罪し、強制隔離での人権侵害を受けた全ての患者への補償を義務付けました。国は控訴の選択肢を捨てて、「90年に及ぶ辛苦から患者を救う」との政治判断で判決は確定、翌月国会の全議員の思いが束なって「補償法」が成立しました。
 判決後も厚生労働省は熊本判決に基づく各種施策の実施をあわよくばサボタージュすることに熱心でした。厚生労働省の下に設置された「ハンセン病問題検証会議」のスムーズな運営の面で露骨に表れていました。また、ハンセン病問題の啓発活動の全くの不十分性が熊本でのアイスターホテルの元患者宿泊拒否事件を起こしたと言っても過言ではないでしょう。
 「補償法」は、その前文で「ハンセン病療養所入所者等がこれまでに被った精神的苦痛を慰謝する」とその立法的趣旨を明確にしています。厚生労働大臣告示に具体的にその療養所名がないからという法の文言解釈と、日本国内以上に「精神的苦痛」を受けた入所者が訴え、台湾楽生院訴訟が採用した根拠「法の下の平等」の解釈、適用判断を比較すれば、「ハンセン病問題」という「人間の罪」を裁く司法判断の性格を考えても後者に理があることは明白です。
 小鹿島更生園・台湾楽生院補償請求訴訟弁護団の声明「ソロクト訴訟の不当な判決に抗議する」と、判決直後原告団、弁護団が共同して厚生労働省に要請した内容を支持する立場から私たちの「会」として下記の内容を要望するものです。

1.台湾楽生院訴訟については国、厚生労働省は控訴せず、判決に従って直ちに「ハンセン病補償法」に基づく作業をすすめてください。

2.ソロクト訴訟原告の高裁判決を待たないで、原告の平均年齢80歳代を考慮し、行政の責任として全面的な解決に努力してください。

3.立法府として、「補償法」を成立させた精神にのっとり、2つの療養所入所者の全員救済を保障する法的整備を進めてください。さらに、厚生労働大臣はあらたに海外のハンセン病療養所を保障対象とすべき内容の告示を出してください。

 付け加えるならば、2つの療養所には日本の植民地政治が終了した戦後以降の入所者も多数おられます。今回の訴訟では韓国、台湾の多くの弁護士は日本の弁護士との共同作業を進めるとともに、この判決を踏まえて、国内問題として入所者の生活保障を含むハンセン病問題の全面的解決の取り組みを加速させることを強調されていました。その流れを妨害しないよう、何よりも原告の「生きている間に解決を」の声に応える日本側の判断が今こそ、求められています。

 「会」は毎年熊本判決が出された5月を中心にハンセン病問題を市民とともに学び、県出身の入所者との交流を深め、13名の県出身者の「聞き書き集」の発行(7月)など、この4年間市民に「ハンセン病問題」を発信してきました。今後はまだお会いしていない県出身者に早急にお会いして、記録を残す作業に取りかかります。06年5月は熊本判決5周年を迎えます。ソロクト、台湾のハンセン病患者補償請求訴訟の勝利を勝ち取る取り組みをすすめるとともに、忘れてはならない「ハンセン病問題」を発信し続けていく決意です。
 引き続くみなさまのご支援、ご協力をお願いするものです。


代表 酢山 省三(090-4923-0050)
2005年10月26日

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