2006年度活動方針
1 ハンセン病問題を取り巻く現状
戦後から61年を迎える現在、恒久平和と基本的人権の尊重、国民主権をうたって幕を開けたはずの戦後社会の見直しが、さまざまなレベルで進行しています。とりわけ、1980年代から90年代にかけては、戦後民主主義の枠外におかれてきた在日韓国・朝鮮人を初めとする在日外国人の人権問題や、いわゆる「軍隊慰安婦」にされた女性たちの存在がクローズアップされてきました。しかしながら、そういった戦後の検証作業が進んでいく中でも、ハンセン病問題は視野の外に置かれてきました。私たちは、この点にこそ戦後日本社会の最大の問題点が存在していると考えます。その後、1996年に「らい予防法」が廃止され、原告・弁護団・支援者の闘いによって2001年5月11日の熊本地裁判決をかちとり、ようやくハンセン病問題解決の希望の光が見えてきました。
日本政府に国内同様の補償を求めた韓国ソロクト・台湾楽生院訴訟では、昨年10月25日、東京地裁はソロクト訴訟については原告敗訴、楽生院訴訟については原告勝訴の判決を下しました。これに対し、日本国内同様の補償をおこなえという世論が起こり、今年2月、ついにハンセン病補償法が改正され、ソロクト・楽生院入所経験者に対する補償が実現するに至りました。
また、昨年11月に厚生労働省は、「胎児標本」を年度内に焼却するように各療養所に伝えましたが、これも、広汎な世論の力でひとまず押し止めることができました。さらに、多磨全生園における医療過誤訴訟でも、和解にこぎつけることができました。
もちろん、3年前の熊本県のホテルのハンセン病回復者に対する宿泊拒否とそれに抗議した菊池恵楓園自治会に対する差別的な手紙や電話の殺到という事実を忘れることはできませんが、「らい予防法」廃止から10年、熊本地裁判決から5年が経過した今、ようやく見え出したこの希望の光をさらに輝かしいものにしていかねばなりません。そのためにも、私たち一人ひとりがハンセン病問題の当事者であることに思いを致し、ハンセン病問題の解決のために努力していきましょう。
2 具体的な2006年度活動方針
私たちの活動の柱は、交流・検証・提言 の3つです。(1)交流
交流には、全国のハンセン病回復者間の交流、ハンセン病回復者と市民との交流、ハンセン病問題に取り組む個人・支援団体の交流、日本・韓国・台湾などのハンセン病問題に取り組む個人・支援団体の交流などがあります。毎年、5月11日前後に熊本判決を風化させないために年次交流集会を開き、市民学会の交流プログラムとしてだけでなく、随時、必要に応じて入所者の方たちや退所者の方たち、家族や遺族の方たちが市民の皆さんと色々な形で交流できるよう、多様な交流の場を作ることをめざします。
また、分野別の部会の設置を通して、そのテーマに関心のある人ならば誰でも参加することができる交流の機会を設け、成果を公表していきます。家族部会、宗教部会に続けて、今年度は青年学生部会、教育部会、図書・資料部会が発足する予定です。
青年学生部会は、ハンセン病問題を風化させず、問題意識を次世代に継承していくとともに、医療・福祉の現場で働く若者、卒業論文・修士論文などでハンセン病問題に取り組む学生・院生の交流を図ります。
教育部会は、教育現場においてハンセン病をどう教えているか、その教育実践についての交流を図ります。教員、教員志望者を軸に、教育に関心ある方々の交流を図ります。
図書・資料部会は、全国に散在するハンセン病関係の資料の散逸を防ぎ、保存、活用していくことをめざします。
今後も、こうした部会の活動内容や成果については、交流集会の場や市民学会のHPに部会のコーナーを設け告知や報告などを掲載したり、『ニュース』『年報』などの誌上でも発表していきます。
(2)検証
ハンセン病に関する検証会議の最終報告書が厚生労働省に提出され、日本独自の絶対的強制隔離政策が戦後も続いた真相とそれに関わる国・自治体、関係各界の責任が明らかにされました。しかし、この報告書ですべての真相が解明されたわけではありません。強制堕胎・強制断種、堕胎胎児の標本作成、韓国・台湾をはじめとする旧植民地・旧占領地における隔離政策、国会の無作為の責任など、事実が明らかにされても、なぜそうしたことがおこなわれたのかというその真相はまだ十分には解明されていません。
今年度は、おもに旧植民地・旧占領地のハンセン病問題と「胎児標本」の真相究明を進めます。これらの真相究明はまさに緊急の課題です。前者については、すでにシンポジウムで着手しましたが、韓国・台湾のみならず、旧「南洋」(ミクロネシア)、旧「満州」、中国・東南アジア・南太平洋地域における日本のハンセン病政策の実態の解明を進めます。また、後者については、「胎児標本」の背景にあるハンセン病患者に子どもを生むことを禁じた国家の論理の解明を進めます。
こうした会員の多様な検証活動の成果は、『年報』誌上や交流集会、独自のシンポジウムなどを通じて広く発表していきます。
(3)提言
私たちは、国や自治体、ハンセン病療養所、あるいはマスメディアなどに対して、ハンセン病問題への理解を深める取り組みの着手、回復者・家族の待遇などについて提言をおこなっていきます。特に、入所者の高齢化が進む療養所の現状については、入所者の視点に立った将来構想を創造する必要があります。全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)との強い連繋のもとに、ハンセン病問題への理解を深める活動や、療養所の将来構想をはじめとする今後の政策に関する提言を行っていきます。その成果についても、交流集会や『年報』などの場で随時、発表していきます。
以上、3つの柱となる活動を円滑に進めるためにも、『ニュース』を随時発行するとともに、『年報』を年1回出版します。前者には交流を中心とする各地から寄せられた情報を、後者には交流集会報告や会員から投稿された論文などを掲載します。会員の積極的な投稿を期待します。
また、アジア・太平洋地域への補償拡大の支援、認知訴訟の支援、栗生楽泉園の「重監房」復元運動への支援、「菊池事件」の再審請求の支援、映画「新・あつい壁」の製作・上映への協力などにも、署名活動への協力や、関係する講演会・シンポジウムの開催・後援など、考えられる形で随時取り組みます。さらに、各種のハンセン病講座開催・開設とそれへの講師派遣など、ハンセン病市民学会として、ハンセン病差別の解消に繋がるための取り組みを考えていきます。
ここに掲げた活動は、きわめて多岐に渡るものです。それだけ、ハンセン病問題はすそ野の広い問題でもあります。ここに掲げられていない、たとえばハンセン病医学などさまざまなテーマも含めて、これらの問題に取り組むためには、会員の皆様が、ハンセン病市民学会の場で交流を重ね、ネットワークを広げて、活力あふれる思いで協働して下さることが大切です。
2006年5月13日
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