真夏の所沢より、お便りいたします。以後時々、こんな形でクリニックでの日常をお知らせしますので、お暇なときにご覧下さい。
所沢の中富は、農家と新しく越してきた人たちの住宅が入り混じっています。農家からいただく、トマトやきゅうり、ナスやスイカなど、新鮮な野菜には事欠きません。
先日診療を終えた後、隣町のお祭りに行ってきました。古いお社の小さな境内に組んだやぐらの上で、素朴なお囃子を演奏しているのは、うちのクリニックに来られる農家のおじさんです。小さな女の子が、「あっ!おうえんの先生」と叫びました。イボの治療に来る子です。地域に根ざすとは、こういうことなのだなあと思いながら、夏の夜のひと時、畑の中を遠回りして帰りました。
7月9日、一ヶ月遅れで開設一周年記念のお祝いをしました。今年は梅雨明けが遅く、この日も朝から雨空でしたが、大勢の退所者の方々とハート相談センターのメンバーがホールに集まって、座る場所も無いほどでした。ご近所の八重樫さんご夫妻が、素敵な鉢植えを抱えて、お祝いに駆けつけてくださいました。一通り集まったところで、院内見学となりました。1年前はがらんとしていて、二階に皮膚科があるだけでしたが、今は内科の設備も一通り整って、皮膚科は一階に降りています。二階にはたった2床ですが、入院室ができました。昨年の秋、通院できない遠くの患者さんが来られたので、思い切って作りました。
この日はNHKの取材が入って、皆さんが久しぶりの挨拶を交わしている様子を、テレビのカメラが追っていました。賑やかに会話が弾む中、さて一同ご挨拶ということになりました。NHKのレポーターは、「皆さん、お顔が出るのは困るという人は、手を挙げてください」と声をかけると、ほとんど全員が手を挙げました。やはりというか、残念ですが現実です。
1年前の開設以来、苦しい運営が続きました。全生園裁判を勝利に導いた内藤弁護士さん曰く、「落下傘で飛び降りたような開業」でしたから、誰一人知人も無い畑の中で、よくやってこられたものです。経営を担当する主人はご挨拶の中で、不覚にもほろりとすすり上げておりました。開設当初、地元では全く知られておらず、受診者がほとんどない中、退所者の方々はよく通ってくださいました。そして少しずつ近所の方々が来られるようになると、その家族や友人に広がり、ゆっくりと受診者が増えていきました。この1年、長い長い道のりでした。
7月26日に放送されたNHKの福祉番組(ハンセン病 終わらない「隔離」)は、小さな波紋を作りました。見知らぬ人から電話で、伝染の心配について素直な質問を受けたり、小学校の先生から、学校教育の中でこの番組を紹介したい、というものもありました。前者については、ここぞとばかり、私は喜んで説明をします。また後者については、近々この先生達がクリニックを尋ねて来られることになっています。その日は退所者の方々も参加しますが、きっと大きな輪につながっていくことでしょう。また地元からは、とても感動したとの反応も届いています。正直に言いますと、テレビの影響がどう出るのか、不安でした。しかし今のところ、心配したような反応は受けていません。近所の奥さんに「先生、がんばってね」と言われると、「ここに来てよかった」と、つくづく思います。
お盆を迎えて夏の真っ盛り、今年はクリニックも少しだけ余裕ができて、2日間の夏休みを取りました。そこで8月14日、暑気払いのバーベキューを行いました。まあ、簡単な昼食会といったところで、それぞれ自慢の一品を持ち寄って、20数名が来てくださいました。若い学生さんや八重樫ご夫妻、友人知人、それにクリニックによく来るジェイン(イギリス人)も参加して、真夏の一日が過ぎました。ジェインは、初めて退所者の方々に会ったのですが、すぐに打ち解けて、どなたかとメルアドの交換をしていました。この日の夜、ジェインは興奮して電話をかけてきました。こんなすばらしい会に呼んでくれてありがとう、そしてこんな素敵な人たちに会えて嬉しい、帰ってからも、一人で興奮している、とのことでした。彼女もご近所の人、こうして自然に誰もがお友達になっていくのですね。
今日からクリニックの駐車場で、朝のラジオ体操が始まりました。懐かしい音楽にあわせて、小学生たちが、眠い目をこすりながら集まってきます。
ルミちゃんの話
テレビ放送の中で、チラッと出てくる我がクリニックのスタッフにお気づきかと思います。佐久間留美ちゃんです。彼女はクリニックの開設以来、ずっと活躍しているメンバーで、今では当院には無くてはならない重要なスタッフです。退所者の方々とは大の仲良しで、貴重な休みの日に、このごろ少し元気の無いKさんのお家にまで出かけていくほどの心遣いができる女性です。茨城にいるルミちゃんの弟夫婦は、ルミちゃんから知らせを聞いて、一家揃ってあのテレビ番組を見たそうです。「あー!ルミが出てきたー!」と大歓声、続いて番組が進行すると、一同シーンと静まって、最後は涙を隠す人もいたそうです。数日後、ルミちゃんの里から、新鮮な魚介類の入ったダンボールが、ドーンと届きました。私たちもおすそ分けを頂いて、茨城の海岸で採れた、新鮮なイカのお刺身を食べました。「弟の嫁が、姉ちゃんがんばれって、送ってきました」とのことです。これが、ごく普通の人たちの反応です。大きな予算を使って政府が行う啓発活動の空々しい嘘よりも、クリニックの近所の人たち、ルミちゃんの弟夫婦、普通の人たちの普通の反応の積み重ねが、へんてこりんな差別を無くしていくのかなーと、思っています。
ではまた、お便りいたします。まだまだ暑い日がつづくことでしょう。夏風邪、水イボ、トビヒが流行っています。ご注意ください。
(2006年8月21日)