和泉眞藏 インドネシア便り

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 ハンセン病市民学会の皆様、お元気でお過ごしでしょうか。日本は今年も猛暑のようですね。NHKワールドで日本の天気予報を見ていますが、連日34度や35度と知り大変だろうなと同情しています。こちらは連日32度くらいで、日本よりは過ごしよい日々です。ただ今年は異常気象で、乾季の今でもスコールが降ったりして湿気が多い日が続いています。ムンバイの豪雨といい、やはり地球規模で異変が起きていると実感しています。

 5月の市民学会で皆様にお目にかかってすぐ、インドネシアにもどり仕事に復帰しました。その後のことをお話ししましょう。
大きなイベントは、7月上旬にジャカルタで開かれた、第11回インドネシア皮膚病学・性病学会総会でした。この総会は3年に1度開かれる大きな学会で、インドネシア全土から800人くらいの皮膚科専門医と研究者が出席し、研究を発表します。私たちの研究室からも7人が参加し、それぞれ研究成果を発表しましたが、その総数は13題にもなりました。
 私はハンセン病に関するシンポジュウムで、「分子疫学最近の進歩」と題して20分間英語で講演しました。できればインドネシア語で話した方が良いのですが、私の片言では荷が重すぎます。
 私たちが出した13演題はもちろん全てハンセン病に関するもので、話題は多岐にわたりました。地域住民のらい菌感染状況を血清学的方法で解析した研究、分子疫学の方法で東部ジャワ州のらい菌の特性を明らかにしたもの、流行地の生活用水中からのらい菌の証明、また、L型ハンセン病患者で見られた子宮内感染を最新の技術を使って証明した症例報告、などです。
 参加してみて分かったのですが、これまで研究に協力してきたいくつもの他大学や病院のデータも発表されました。それらには全て私の名前が共同発表者として載っていました。それらを総合すると、私が関係した演題は19題くらいになったでしょうか。こつこつやっていると成果が蓄積するものと改めて思いました。
 最近の学会では、ポスターセッションというのがはやりです。これは研究内容を模造紙くらいの大きさのポスターにまとめて貼り、参加者は自由にそれを見ながら発表者と討論するという方式です。私が見に行くと多くの発表者が集まってきてコメントとを聞かせてほしいと言ってきました。良い研究もたくさんあり勉強になりましたが、中には診断が基本的の間違っているものもあり、「これ間違っていませんか」と言ったところ、かつての私の教え子が教授になっている大学からの発表でした。そう言えば彼はあまり出来が良くないのに、政治力で教授になったとの噂がある人でした。インドネシアでも日本と同じことがあるのですね。
 今度の総会ではもうひとつ嬉しいことがありました。開会式で、私がインドネシア皮膚病学・性病学会の名誉会員に推挙されたのです。長年にわたるインドネシアでのハンセン病医学研究の功績が推挙の理由でした。事前に全く知らされていなかったのでびっくりしましたが、大変名誉なことでたくさんの知人がお祝いの言葉をかけてくれました。これも国賠訴訟の皆様方のご支援の賜と心から感謝しています。本当にありがとうございました。

 今ハンセン病を巡る世界の情勢はかなり大きく変動しています。世界全体を大まかに見ると患者は減少しているように見えるのですが、詳しく見ると増えているところもあり、楽観できる状態ではありません。登録患者の率が人口1万人につき1人以下になると、ハンセン病が制圧された国の仲間入りをするのですが、それで安心してハンセン病対策を軽視すると、報告されてくる患者数はますます少なくなり、制圧が進んでいると思い込んでしまいます。しかしその間にも潜在患者は次第に増えて行くのです。
 制圧が成功したと報告されている国の多くは、新患数が減少していないのが気がかりですが、その典型がインドネシアです。年間15000人もの人が新しく発病し、その数が減少しておらず、いつになったら減少するかの見通しも立たない状態を「制圧できた」というのでしょうか。現場で見ていると、WHOの現状認識はどこか間違っているとの疑念を禁じ得ません。それはともかく、インドネシアにおけるハンセン病流行の原因解明と、予防対策の提言を考えながら地道にデータを積み上げる毎日です。

 忙しくしているうちに8月になりました。今日久しぶりに街に出てみると通りのあちこちに赤と白の幟が立っています。インドネシアの国旗は赤と白の2色旗ですから、何か国を挙げてのお祝いがあると街が赤白の幟で埋め尽くされます。そう8月17日はインドネシアの60回目の独立記念日なのです。
 インドネシアが独立したのは日本敗戦の2日後でした。その早さには驚かれると思いますが、それはスカルノやハッタが日本の軍政下で独立の準備をしていたからです。もっとも宗主国のオランダが独立を認めるまでにはそれから4年あまりの戦争と交渉が必要でした。
 インドネシアの国是は「多様性の中の統一」です。東西5000kmに横たわる列島国家を統一するのは大変な仕事だと思います。昨年12月に津波の被害を受けたハンセン病の流行地のアチェ州では、8月15日に30年間続いた独立武力闘争を終結する協定が調印され、ヨーロッパや東南アジアからの停戦監視団220人が現地に入ることになっています。今度こそ平和が実現してほしいと切に願っています。
(2005年8月5日)
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