2006年度第2回沖縄県ハンセン病証言集編集委員会が9月30日(土)に沖縄県庁会議室で開かれました。昨年度末刊行予定の『沖縄県ハンセン病証言集 資料編』の原稿校了が5月の連休明けにずれ込み、その勢いのまま富山のハンセン病市民学会に出席して英気を養った私たちは、さっそく証言編の編集作業に入っていました。課されたノルマは、9月末までに掲載予定の全証言原稿の第1稿を作成することでした。裏を返せば、草稿未作成の証言は証言編から割愛されます。生きた証として、聞き取りを行ったすべての話者の原稿を掲載したいと思い続けてきた私たちには試練の夏となりました。
その結果、聞き取りを行った話者195人中123人の証言草稿が作成されました。7割弱です。原稿化できなかった3割強の中には、話者からその許可が得られなかった場合や録音テープがない等の場合が含まれています。南静園事務局でも、同様に、83人中69人の草稿が作成されました。作成者は聞き取りを行った調査員と各事務局の研究員です。
これらの第1次原稿を作成するために、私たちは定期的に原稿検討会を開いてきました。愛楽園事務局では5月以前は毎月1回、5月以降は毎月2〜3回です。南静園事務局では5月以降毎週のように開催されました。提出された草稿を読み合わせして、改善点を議論します。その中で次の10項目の要検討事項が出てきました。(1)愛楽園・南静園の両園に入所していた話者の原稿の取り扱い、(2)事実誤認または曖昧な原稿の確認方法、(3)読者の対象年齢と地域、(4)差別用語の取り扱い、(5)個人評価の偏り、(6)「差別はなかった」等の証言の取り扱い、(7)頁数の制限、(8)話者への原稿確認の方法と時期、(9)事務局間の相互確認の必要性、(10)印刷スタイル・凡例等の統一です。これらについて、先日の編集委員会で議論が行われたわけです。(1)(9)(10)は、証言編が『沖縄愛楽園編』と『宮古南静園編』の2冊からなり、それぞれを愛楽園事務局と南静園事務局で編集するため問題となります。
その他の点について、少しだけ紹介したいと思います。例えば(3)は、読者層に小中学生を含むか(幅広く語り継がれたいので)、本土の読者を想定するかという問題で、関連して方言表記をどうするか、また読みやすさを優先して話者の語りをどこまで整理してよいかが問題になります。例えば「スルルーグヮという小さな魚」という語りがありました。キビナゴのことです。「グヮ」は漢字で「小」とも表記されますが、「グヮ」「グァ」「グワ」のどれなのか。一口に沖縄方言といっても地域によって様々で、自分たちは「ウチナーンチュ」か「ウチナンチュー」かが新聞紙上で論争とされていました。そして話者の中にはすべて方言で語った方もおり、これを共通語に直して読みやすくするのがよいかどうか。また方言はカタカナかひら仮名か。全国の高校生以上を読者とする、ということまでは決まりましたが、細かな点については、話者の言葉を大事にするという基本線が再確認されたにとどまりました。
次に(5)は、歴代園長等への賞賛や非難の声を私たちは聞き取りましたが、これをどのように掲載するかです。『資料編』では、議論の末、包み隠しをしないという原則を維持しましたが、証言編では話者への配慮も必要です。例えば愛楽園の二代園長早田皓に対する入所者の評価は二分され、功罪相半ばするというところですので、遺族の心情は複雑でしょうが、このような場合にはその両側面をそのまま掲載しても良いように思われます。しかし、愛楽園には断種を勧めたとして負の評価ばかりが聞かれる職員もいます。この場合は氏名を伏すべきか。あるいは現在も第一線で活躍中の人物について負の評価を掲載して差し支えないか。反対に、愛楽園初代園長のように、今となっては賞賛の声しか聞かれない人物の場合はどうするか。編集方針の第1か条は「隔離政策を反省する」ですから、賞賛への偏りも気になります。この問題はまだ結論が出ていません。
何よりも(7)の頁数の制限が私たちの最大の悩みかもしれません。『資料編』(850頁)の反省から、証言編は1冊500頁と決められています。しかし愛楽園事務局で作成された草稿は、すでにこの2倍に達します。今後も追調査をするので情報量はさらに増えるし、完成原稿には写真も入れたいです。つまり大胆に削る作業をこれからしなければなりません。1つの方法は掲載話者数を減らすこと、もう1つは証言の短縮です。委員会の5日後に事務局内で話者数の4割減を目標に検討をしましたが、それぞれの証言が貴重に思われて、また実際に貴重で、うまくいきませんでした。現時点での方針は、4人の話者について各人15頁を確保する人生編と、118人の話者について平均3.3頁(3000字程度)で、入所・退所・戦争・家族等のテーマに即して、その証言のほんの一部だけを紹介する被害実態編の2部構成です。つまり12月までの3カ月で、追調査をして証言をふくらませつつ原稿を短縮するという離れ業のようなことをしなければなりません。
沖縄愛楽園証言集編集事務局(2006年10月10日)